スナックの開業に必要な許可申請とは?営業形態によって異なる要件を解説
アルコールを楽しめる飲食店のひとつに「スナック」があります。スナックというと一般には「ママ」と呼ばれる女性店主が接客してくれる店がイメージされますが、バーなどと同様、スナックにも明確な定義は存在しません。
ここでは「スナック」と呼ばれる飲食店の開業に必要な許可や届出について、営業形態ごとに説明していきます。
「スナック」と呼ばれる営業形態について
一般に「スナック」というと、女性店主(ママ)や女性従業員との会話を楽しみながらお酒が飲める店、というイメージが強いかもしれません。しかし法律上は「スナック」の明確な定義はありません。
このためスナックを開業する場合には、実際の営業形態に合わせて必要な許可申請や届出を行うことになります。
まずは飲食店営業許可を取得する
どのような「スナック」でも、必ず必要なのが保健所の「飲食店営業許可」です。これは食品衛生法に基づく「都道府県知事の許可」(食品衛生法第52条)のことで、許可を受けるには「人の要件」と「施設の要件」を満たさなくてはなりません。
人の要件
人の要件とは、文字通り店舗に関わる「人」に関するものです。
①欠格事由に該当しない
店舗の営業者(経営者)や、店舗を経営する会社の役員に関する要件です。これらの人が過去に食品衛生法に関する処分を受けていたり、営業許可を取り消されて2年が経っていない場合は「欠格事由」として飲食店営業許可が受けられません。
②食品衛生責任者を置く
飲食店には、1店舗につき1名の「食品衛生責任者」を置かなければなりません。食品衛生責任者の役目は店舗の衛生管理が法令に反しないように管理することで、栄養士や調理師といった「食品衛生管理者の有資格者」か「食品衛生責任者になるための講習会または知事の指定した講習会の受講修了者」の中から選ばれます(参考:一般社団法人東京都食品衛生協会「食品衛生責任者養成講習会」)。
施設の要件
施設の要件とは、建物の構造や建物内の設備に関するものです。おおまかな基準は全国共通で、たとえば以下のようなものが挙げられます。
- 厨房の床が清掃しやすい作りになっているか
- シンクの幅が一定以上の大きさになっているか
- 厨房内とトイレ内に手洗い場が設置されているか
- 厨房と客室が扉などで分けられているか
- 食器棚に扉がついているか
- 厨房内に蓋付きのゴミ箱が設置されているか
これら以外にも細かな要件があります。また保健所によっては細かな運用基準が異なる場合もあるので注意が必要です。実際に申請する際は、あらかじめ保健所に相談したり、事前確認をする必要があるでしょう。
防火対象物使用開始届を提出する
次に必要なのが消防署への申請です。代表的なものとしては「防火対象物使用開始届」がありますが、自治体ごとの条例(「横浜市火災予防条例」など)では他にもいくつかの届出が必要とされています。
防火対象物使用開始届出書/防火対象物工事等計画届出書
「防火対象物使用開始届出書」は、スナックの新規開業時に提出するものです。これに対し「防火対象物工事等計画届出書」は、間取りの変更や修繕を行う場合に提出します。
それぞれの届出書は、建物内の平面図、設置器具のリスト、消防用設備等の設計図や配置図などを添付したうえで開業や工事の7日前までに提出します。
防火管理者選任届出書
「防火管理者選任届出書」は、店舗の規模が「収容人員30人以上」になる場合に提出します。ちなみに防火管理者とは「消防計画」の作成など、店舗の防火に関する業務を担当する人のことです。
防火管理者は店舗の大きさによって2つの種類に分けられます。延べ面積が300㎡以上の店舗の場合は「甲種防火管理者」、それ以外の店舗では「乙種防火管理者」です。どちらも役割は同じですが、甲種防火管理者になるには2日で約10時間の講習、乙種防火管理者になるには1日で約5時間を受けて、効果測定試験に合格しなければなりません。
消防用設備設置届出書
スナックを含む飲食店は、消防法に基づいて以下のような「消防用設備」の設置が義務付けられています。
- 消火設備…消火器やスプリンクラーなど
- 警報設備…ガス漏れ警報設備や火災通報装置など
- 避難設備…「はしご」などの避難器具や誘導灯など
- 消防活動用設備…排煙設備など
これらの消防用設備を設置した場合は、店舗の所在地を管轄する消防署に「消防用設備設置届出書」を提出します。
消防計画
消防計画とは、火災などの災害を防ぐため、そして万一災害が発生した場合の被害を最小限にするための行動計画です。具体的には消防設備の維持管理や防災訓練に関すること、災害発生時の避難行動などについて定めますが、多くの自治体ではひな形を用意しているため、それを利用すると良いでしょう(参考:横浜市「届出様式ダウンロード」)。
接待を行うなら「風俗営業1号営業」許可が必要
「スナック」の営業形態によっては、「風俗営業1号営業」の許可が必要になる場合もあります。必要な許可を受けないまま営業を行うと罰則を受けることになるため、注意してください。
風俗営業1号営業とは
風営法によると、風俗営業1号営業とは「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」のことです(第2条第1項第1号)。ここには「スナック」という言葉は出てきませんが、中ほどにある「客の接待」を伴う営業であれば、スナックであってもこれに該当します。
「接待」とは
風俗営業1号営業の特徴である「接待」とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」(第2条第3項)です。具体的には継続的に客の隣に座って歓談したり、客の相手をすることがこれに当てはまります。一方で、単に料理や飲物を運んだりカウンター越しにお酒を提供すること、あいさつや世間話を交わすことなどは接待ではありません。
風俗営業1号営業許可の要件
スナックで接待を伴う営業をする場合は、風俗営業1号営業として以下のような「構造上の基準」を満たす必要があります。
- 客室の床面積が、和室の場合は1室あたり9.5㎡以上、その他の部屋は1室あたり16.5㎡以上であること(客室が1室のみの場合は、これより小さくても問題ありません)
- 客室内が店舗の外から容易に見通せないこと
- 客室内に見通しを妨げる設備(高さ1m以上のイス、ついたてなど)を設けないこと
- 「善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある」写真やポスター、設備などを設けないこと
- 客室の出入口に施錠設備を付けないこと(店舗の外に通じる出入り口を除く)
- 店内の照度が5ルクス以下にならないように維持される構造・設備を設けること
- 騒音や振動が条例で定める数値未満に維持される構造・設備を設けること
これらの要件を満たさないまま接待をする(風俗営業1号営業を行う)と、風営法違反として処罰されます。
無許可で風俗営業を行った場合の罰則
風営法第49条によると「許可を受けないで風俗営業を営んだ者」の罰則は以下の通りです。
「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はこれの併科」
この罰則は無許可営業の他に、「不正手段による許可取得」や「相続・合併による許可取得」、許可の「名義貸し」などにも適用されます。
ちなみに、許可申請書や添付書類に虚偽記載をした場合の罰則は「50万円以下の罰金」です。
深夜営業を行うなら「深夜における酒類提供飲食店営業」申請が必要
深夜0時から早朝6時までの時間帯に営業を行う場合は「深夜における酒類提供飲食店」(以後「深夜酒類提供飲食店」)となり、あらかじめ警察署への届出が必要です。
深夜酒類提供飲食店の要件
深夜酒類提供飲食店には「立地の要件」「施設の要件」と一定の「禁止事項」が設けられています。
まず「立地の要件」とは、店舗の所在地に関する決まりごとです。具体的には13種類に分けられた用途地域のうち、「住居専用地域」「住居地域」「準住居地域」で深夜酒類提供飲食店を営業することはできません。
次に「施設の要件」として、深夜酒類提供飲食店では以下の基準をすべて満たす必要があります。
- 客室の床面積が9.5㎡以上(客室の数が1室のみの場合は制限なし)であること
- 客室に見通しを妨げる設備がないこと
- 善良な風俗等を害するおそれのある写真、装飾等の設備がないこと
- 客室の出入口に施錠の設備がないこと
- 営業所の照度が20ルクス以上であること
- 騒音、振動の数値が条例で定める数値以下であること
最期に「禁止事項」として以下のものが挙げられます。
- 接待をしない
- 午前0時以降は客に遊興させない
- 22時以降に18歳未満の人に接客させない/保護者が同伴しない18歳未満の人をお客として入店させない
- 客引きをしない
深夜酒類提供飲食店の届出に提出期限はありませんが、届出の内容が有効になるのは「受理された日の10日後」です。あらかじめ開業日から逆算して、少なくとも10日前には提出するようにしましょう。
風俗営業1号営業と深夜酒類提供飲食店を兼ねることはできない
すでに説明した通り、スナックは「風俗営業1号営業」になることもあれば「深夜酒類提供飲食店」になることもあります。しかし同一の店舗が、風俗営業1号営業と深夜酒類提供飲食店を兼ねることはできません。
具体的にいうと「接待を伴う店」が「深夜0時以降に営業」することは風営法上、不可能です。違反した場合には罰則も適用されるため、十分に注意してください。
まとめ
今回の記事では「スナック」を開業する際の許可や届出について説明しました。ひとくちに「スナック」といっても、営業の形態によって満たすべき基準や申請内容(届出内容)は変わります。特に「風俗営業1号営業」と「深夜酒類提供飲食店」に関する部分は要注意です。
これからスナックの開業を考えている方は、風営法の許可申請業務を専門に取り扱う行政書士などに相談しながらスムーズな許可取得を目指してください。